そう、これは大事件以外の何物でもない。かの有名なトリクルダウン理論[訳注:上層部に資金を投入すれば、それが最下層まで徐々に浸透するという経済学の理論]が、Linux携帯の開発にも適用されるのを、われわれは目の当たりにしているのだ。
この動きに明らかに一致している例を1つ紹介したい。
木曜午前、私はカリフォルニア州サン・マテオのIBM's Partnership Solutions Centerで開かれたブリーフィングに出席し、Evant, Inc.という新興企業が最新情報を発表するのを聞いた。わずか1年前、Evantは、サンフランシスコに小さなオフィスを構えた、社員数12名の企業であった。高品質のソフトウェア製品(小売店用のブラウザベースの商品報告アプリケーション)と、何人かの忠実な出資者、そして多くの希望を持っていたが、資金が底をつき、状況は厳しくなった。大規模な小売店を顧客として取り込むことができれば、再起は可能だった。ここで、Staples, Inc.という大きな魚が針にかかったが、Evantは有力企業でなかったために、自力ではそれを釣り上げることができなかった。かくしてまた1社、ハイテクベンチャーの悲劇への道を歩むことになるかと思われた。
しかしEvantは、完璧なタイミングで完璧なパートナを見つけた。それがIBMだ。EvantはソフトウェアをIBMスタックでテストし、認定を受けており、IBMの主な意志決定者はEvantに注目していた。IBMもStaples(110億円規模の多国籍企業)を釣り上げたいと考えていたので、両社はパートナとしてサインしたのだ。その1年後、ソフトウェアは成功を収め、皆が幸せになった。
800ポンドのゴリラとパートナーシップを結んだことが功を奏して、Evantは1社目の顧客を手に入れ、さらにMcKesson、Napa Auto Parts、United Stationers、Camping Worldなどの新しい顧客を50社獲得し、社員も160人に増えた。正しい予測と高品質な製品、そして政治的執念をもって、Evantは今やこのニッチ市場のリーダとなろうとしている。
Linuxは新興ではないが、携帯電話の分野では新入りだ。ここ3年間で、IBM、Oracle、Sunをはじめとする企業が、サーバーサイドとデスクトップのアプリケーションの中心的存在としてLinuxを押し上げ、今後もその成長が止まることはないだろう。
今は、その二世が市場を席巻する番だ。
NTT DoCoMoは800ポンドのゴリラどころではない。あらゆる点において、IBMが全世界で持つ力にも劣らない力を東アジアで持っている。DoCoMoは、2004年の端末ラインナップのコスト削減の手段としてLinuxを導入しようと考えている。DoCoMoは、これを必ず達成するだろう。端末のメーカ(Panasonic、Toshiba、Fujitsu、NECなど)はLinuxによって、製品の価格を大幅に下げることができるはずだ。この携帯電話業界の巨人がLinuxベースの電話を登場させれば、あとは他企業が雪崩のように追随するだろう。
世界トップクラスの端末メーカであるNokia(フィンランド)も、今年1月に最初の携帯用Linux SDKをリリースして以来、携帯用Linuxの採用に積極的だ。2月にはMotorolaが、携帯端末の大部分に段階的にLinuxを採用する、と発表してこれに続いた。そして、最初のLinux携帯(A760)を8月に発表した。
IDC Researchは、携帯電話市場におけるLinuxのシェアはほぼゼロだが、この先2年で、高機能スマートフォンの市場で4.2%ものシェアを獲得するだろうと見積もっている。2007年には、このシェアは10%に達する可能性があるという。
NTT DoCoMoをはじめとする極東のIT企業は、ドミノのような状態だ。倒れずにそれぞれ業務を行っていれば、近くに立っているだけにすぎない。しかし、1つが動くと、その他も必ずそれに従うのだ。最初の1つさえ動かせば済む。
この「最初の1つ」が、DoCoMoだ。ドミノが倒れはじめるのもそう遠くない。投資家たちは要注目だ。